前置きが長くなりましたが、以上を踏まえた上で、つぎはDXの成功事例を紹介
し、中小製造業のDXの方向性を探ってみます。
情報技術を導入するだけでなく、それをいかに活用して新しいビジネスを創出
するかが求められる時代
今回は、DX取り組み事例から見える中小製造業の「DX」像を浮き彫りにして
いきたいと思います。
とかくIOT、デジタル技術の導入に目が行きがちですが、中小企業の限られた
経営資源の中で「変革」を成し遂げるには、「人材、組織」「コア技術」を
生かしそれらを「顧客の価値」にどう結び付けていけば良いのか、中小なら
ではのDX化の方向性を考えてみます。
受注加工工場の強みと弱み、DX化の課題とは
受託製造サービス業へ変革する
経済産業省では、令和3年度より、中堅・中小企業等のモデルケースとなるような
優良事例を「DXセレクション」として発掘・選定しています。本取組は、選定
された優良事例を公表することによって、地域内あるいは業種内での横展開を図り
中堅・中小企業等におけるDX推進、並びに各地域での取組の活性化に、つなげて
いくことを目的としています。
では、選定されたいくつかの取り組み事例を紹介します。
事例1.株式会社Y金蔵製作所
最初に、グランプリに選ばれた、株式会社山本金属製作所の事例を紹介します。
<企業概要>
「機械加工にイノベーションを起こす」 を企業存在意義と定義し、3つのコア
技術を武器に、機械加工という、ものづくりプロセスからの新たな価値の創造
に取り組む企業。
【3つのコア技術】
①精密加工技術
②ロボットシステムインテグレーション
③センシング制御・計測評価
<取組概要>
・2030年に目指す姿を ”Intelligence Factory 2030“ と定義
・「工場、生産業務プロセス、開発、営業、人財育成、海外展開」 の重点6分野
に対し、デジタル技術を駆使して、変革、(=新しい形態にアップデート)
することで経営ビジョンの達成を目指す
・ ”Intelligence Factory 2030“ 実現のため、4つの戦略を推進中
①加工現場のデジタル化と自動化
②センシング技術の高度化
③ものづくりデータの蓄積と活用
④生産拠点の複線化
・Intelligence Factoryの成果を、日本の製造業を取り巻く、課題を解決する
ための、アウトプットとして、新たなビジネスモデルである、 “LAS
(Learning Advanced Support)プロジェクト” を推進中
事例2.株式会社N電機製作所
<企業概要>当社は、主に国内電力会社や大手重電メーカー向けに、「配電盤」と呼ばれる
電力制御装置を、設計開発から一貫生産しています。当社の製品は、発電所や
鉄道、浄水場等に設置され、私たちが安心して生活するうえで、重要な電気の
安定供給を支えています。
<取組概要>
【自社開発の生産管理システムによる、デジタル化と、ものづくりの高付加価値化】
・1990年代から独自の経営管理システム、「NT-MOLシステム」を自社開発
原価・工程・在庫の見える化と共有化、3D-CADと、電気回路CADを融合した 3D配線測長、データと加工機の、オンライン接続による板金加工の半自動化など
デジタル化を実現・社長が中心となり、「チームIoT」を組織し、現場の困り事の洗い出しと、IoT
による解決を実施
電線加工プロセスのロボット化を、自社のエンジニアのみで開発したり、社内申請 業務を電子化するアプリを、非プログラマの、社員がノーコード開発するなど、
社員が自らのアイデアにより、業務改善し、デジタル人材の育成にもつなげている。
事例3.株式会社R社
<企業概要>
当社は、 油圧装置の販売・修理・メンテナンスを手掛け、来年で創業55年を 迎えます。昨今の様々な外的要因による、電気駆動式への置き換え需要に伴い
自社の強みを活かして、AI外観検査システム市場に参入しました。
タイ大学内LABOと、同時開発できる環境を整備するなど、社内DXを進めながら
新システムの開発・販売で、製造業の生産性向上に寄与しています。
<取組概要>【デジタイゼーション】
・ 開発環境の見える化、(GitHubの活用で日本とタイのグローバル開発の効率化)
【デジタライゼーション】 ・ 新業務システム、(見積・販売・給与・会計)、導入によるデータ連携・ 外観検査システムの、サブスクリプションによる販売
【DX】 ・ 自社オリジナルの、クラウドAI外観検査システム、[CLAVI]の開発
(スマホやMアールでの部品検査)
初期投資20万円、月2万円の低価格なクラウドAI検査システムのサービス提供・ MRを活用した油圧装置の遠隔メンテナンスサービス
(2022年度より実証実験開始予定)。
事例4.株式会社M社
<企業概要>
弊社は昭和25年の設立以来、主に輸送用板金部品を生産しており、主要な製品は トラックの車体部品、乗用車のミッション部品である。
金型設計製作、プレス加工、機械加工、溶接、塗装、組立までを自社内設備で
一貫生産できること、1個の小ロット生産から、1万個超/月の大量生産まで顧客
のニーズに合わせた生産ができる体制を備えていることが特徴である。
<取組概要>自動車のEV化に対応する為 「IoT技術を活用して、QCDを大幅に向上すること
で、新規受注や異業種への参入を可能にする会社に変革し、競争上の優位性を
確立する」ことを目的に、2018年「M社IoT5ヵ年計画」を始めた。
主活動として
①計測器をネットワークに接続して、検査データをデータベースに転送、工数
削減すると共に誤記入防止、統計処理の自動化等で、管理向上を図る。
②作業指示、作業標準、報告書類を電子化し、情報へのアクセス性を高めると
共に、管理工数の削減をする。
③全製造設備にマイコンを組込み、稼働データを発信、データベースに集約
見える化して、生産性向上に繋げる。
④大量生産ラインのプレス、切削、検査工程にロボットを導入して、スマート
ファクトリー化し、品質安定化、生産性向上を実現する。
IoTコア組織を立上げ、育成して主な開発を、内製化することで、技術の蓄積と 低コスト化を図った。 今後は協力会社様との連携も含め、活動を継続する予定
である。
事例5.株式会社H製作所
<企業概要>H製作所は、「お客様に信頼され、満足していただける会社づくり」という経営
理念のもと、常に時代の最先端の技術を追い求めています。当社は金属プレス
技術の中でも、「深絞り」技術を得意としており、「超高張力鋼板」の深絞り
加工や成型加工が主要製品となっています。また、製品を加工するための金型や
溶接治具、生産設備を自社で一括生産できることも強味です。
<取組概要>
グローバル市場拡大に加え、CN対策などにより、更に競争が激化する時代に
必要とされる企業を目指し、「情報化時代における、高い技術の専門性追求と
新しい管理技術の実現による、プロフィット改革の実現」を中期経営改革方針
に掲げ、2019年より下記DX活動を中心に取り組んでいる。
当社はこの活動により生まれた人材を中心に、生産・管理両面の業務改革と
ともに、培ったIT技術のサービス化を進めている
①全部門とのデータ共有を可能にする、「社内プラットフォーム」を自社開発し
各種管理データとノウハウを連携させることで、品質・生産性向上の両面を実現
②製造工程に精通する人材と、ITエンジニアの双方を集めた“ブリッジエンジニア” と呼ばれるチームを発足させ、生産現場とシステム開発を繋ぐことにより、
「使えるアプリ」の開発と、デジタル人材の育成を促進③過去の品質情報などから、各種トラブルの事象に対する原因と対策、及び
その評価を学習させる、「AI技術伝承システム」の開発により、社員の学び直し
や、技術伝承を強化
まとめ(DX化の取り組み)
以上紹介した5社以外も含め、製造業11社が優良企業として選定されています。
では、企業の実像を捉えてみましょう。
①企業規模について
社員数は11社の平均で、105名、最小が24名、最大が280名、資本金の平均
は約6千万円となっています。
ちなみに、資本金が3億円以下、あるいは従業員数300人以下を中小企業と
法律で定義されているため、やや、小規模の部類に入ります。
しかし、20名以下の零細企業とは異なり、ある程度の規模を持った平均的な
中小製造業ともいえます。
②経営ビジョン
11社中6社が、デジタル技術、IT技術によるデータ分析などを取り入れた経営
ビジョンを打ち出しており、社長自らが中心となってチームを結成しIOTに
よる現場の改善に取り組んでいる企業もあります。
③コア技術について
得意分野の加工技術であらゆる業界の製品に対応する、すべての製造工程を
自社で賄う、あるいは設計から製造まで一貫して受注生産し、顧客のきめ
細かい要望に対応しているなど、技術+きめ細かい対応力で勝負する中小
の強みを発揮している企業であることが分かります。
④DX化の取り組み内容
まず、感心するのは、100名足らずの企業が、これだけ盛りだくさんの取り
組みを、通常業務に対応しつつ、将来に向けたチャレンジを行っていると
いうことです。
それは、明確なトップの目標設定と社員への周知、リーダシップが全員参加
の取り組みを可能にしていると考えられます。
主な取り組み内容を下記に列挙します。
・自社開発の生産管理システム導入
・自社開発の経営管理システム導入
・板金加工の半自動化(データと加工機のオンライン接続)
・電線加工プロセスのロボット化
・社内管理業務ソフトのノーコード開発
・開発環境の見える化(日本とタイ間の共同開発)
・外観検査システムのサブスクリプション販売
・AI外観検査システムクラウドサービスの提供
・MRを活用した油圧装置の遠隔メンテナンスサービス
・生産ラインの遠隔監視システム構築
・IOT人材の育成
・製造工程とIT人材双方を集めたブリッジエンジニアチーム発足
・AI技術伝承システム開発
・社内業務効率化システムのコンサル業務の請負
各取り組み内容は、デジタル化、IT化によって、自社のコア技術、サービスを、より高度化(スピード・質・対応力)するとともに、新たな顧客獲得を
目指すことに留まらず、実績を重ねたシステムを外販するという事例まで
上げられています。
分析からわかることは、一見、普通の(下請け)中小企業であっても、このようなDX化の取り組みは不可能ではないということが分かります。
そして、その取り組みを可能にしているのは、組織全体の力を結集し、中小
ならではの、きめ細かいアナログ的な対応力をベースに、IT・デジタル技術
を導入することで対応力を高め、より付加価値の高いサービスの提供を行っ
ていると考えられます。
ぜひ経営者の皆さんは、この事例をよく研究し、自社に展開してみては
如何でしょうか?
(完結)