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プレス機械工場へIOTを導入する(中小企業のスマートファクトリー化 4)

2020.06.18

こんにちは。
高崎ものづくり技術研究所の濱田です。
当研究所は、中小製造業の現場ですぐ使える品質管理、生産管理、組織・人材管理ツールなどを紹介しています。
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プレス機械へセンサーを付けて稼働監視する
以下は、従業員数50人規模のある部品加工工場の取り組み事例です。

(1)本取り組みの背景・目的
当社はプレス機10台、溶接機12台を保有しており、100%自動車部品の加工を行っている三次下請け企業。
昨年度、取引先企業から、製品の大幅コストダウンを通告され、本年度は赤字に転落。しかし、取引先は1社のみのため、他の取引先を開拓することもすぐにはできず、そのまま生産を継続せざるを得ない。そこで、生産ラインの稼働率を高め、生産能力を増強し、既存の取引先からの受注量を増やすことと、新たな取引先を開拓し、売り上げ増を図ることとした。

(2)取り組み内容
加工機械等にセンサーを取り付けることで、センサーで検出した機械の情報をインターネット経由で収集し、さまざまなモノの動きや状態を検知できる。工場内の機械設備の稼働状況を検知できれば、パフォーマンスの低下や故障の事前防止が可能となる。

1)現状の問題点・課題
当社の現場では、人手によって機械の稼働時間や故障などの記録を取ることが行われてきたが、データの内容の不備、欠落などが発生し、またデータの加工分析などを行う専任者がいないために、必ずしも機械設備類の稼働の実態が「見える化」されず、問題点、課題が浮き彫りにならないため、稼働率向上などの改善も進んでいない。
また従来から使われている古いタイプのプレス機、溶接機等には元々センサーが取り付けられていないため、すぐにIoTを導入し、データを取得することができない。ちなみに新しい機械なら、稼動状態を直接出力する機能がほとんど実装されている。

2)本取組みの概要
最近は古いタイプの機械設備でも簡単に取り付けられるセンサーの開発が進み、稼働状況のデータが比較的簡単な方法で取得できるようになってきた。そこで当社では、プレス機械にショット回数をカウントできるセンサーを取り付け、稼働時間、非可動時間、ショット数を監視することとした。

まず、プレス機からショットごとの動作信号取り出す方法としては、ON/OFF接点信号をPLC(プログラマブルロジックコントローラー)に接続し、PLCから信号の変化をサーバー上に送信する方法、またパトライトが付属している場合は、パトライトの光の変化を光電センサーで捉え、PLCへ入力する方法、そして、光電センサーをプレス機のフレームに設置し、反射板を可動側のスライドに貼り付け、センサーの信号をPLCに入力する方法などが考えられる。

今回は稼働状況をダイレクトに捉えることができる光電センサー方式を採用した。この方式は、繰り返し動作を行う機械設備であれば、簡単に取り付けることが可能であることから、汎用性が高いというメリットがある。
プレス機だけIoTで稼働率を取得しても意味がない、他にも設備がたくさんあると考えがちだが、スモールスタート版と考え、先ずは、プレス機データで評価して、効果確認後、他の機械へ展開していくこととする。

取得した信号データは、PLCから通信回線を介してクラウドに送られる。通信の方法はWiFi、または構内無線から、インターネットを経由してクラウドに接続する方式、またインターネットを介さずにLTE閉域網通信(SIM通信)によりクラウドに接続する方式があり、今回はWiFiネットワーク環境のない中小製造業でも手軽に利用できる低コストSIM通信を採用することとした。
本システムは、近県のあるベンチャー企業にて開発中のIoTシステムを採用して試行を行った。

そして、クラウドの機能としては、インターネットを介してどこからでもパソコン画面、あるいはスマートフォン画面で稼働時間、ショット回数の監視がリアルタイムで可能。収集したデータは毎日、週、月単位で解析が可能で、稼働率、可動率、MTBF(Mean Time Between Failures:平均故障間隔)などのデータが得られる。

導入費用は、機器の購入費用とセンサー設置等の工事費用のみであり、中小製造業でも導入しやすい価格である。また、運用費用としては通信回線基本料+データ転送費用+クラウド費用であり、1万円/月と格安で運用が可能となっている。



出典:装置Tech.com
 https://souchitech.com/iot/

3)具体的成果目標
IoTの導入・活用においては、「何を実施するか」ではなく、「何のために実施するのか」を常に考えなければならない。
しかし、参考とする取り組み事例が少ないために、実際に導入するまでは、どのようなデータをどのように分析すれば効果が得られるのかがわからないといった不安がある。

そこで本取り組みにおいては、なるべく費用を掛けずに、機能面でもあれもこれもと欲張らずに、(1)記録・集計の自動化、(2)データの正確性(データの転記もれ、計算ミス等防止)に的を絞り、プレス機の動作監視が行えるかどうかを第一ステップの取り組みとした。
したがって、(3)多品種・少量生産への対応性向上、(4)異常へのオンタイム対応(品質、設備故障、納期、在庫など)、(5)熟練者判断業務の省力化、(6)予防、事前対応などは第2ステップ以降の取り組みとした。

4)システムの運用と稼働状況
最初に、ネックとなっていた、IoT機器の設置、ソフトウエアのインストールなど、またIoT導入後の運用に関して心配していた難しさはほとんど感じずにスムースな導入が図られた。
これは、PLCをプレス機にセットすれば、即座にクラウドの機能によりデータ監視が開始されるといった最もシンプルなシステムを導入したことによって、設置から運用まで2時間で完了し、運用開始後も簡単な操作でスマートフォンや、パソコンから稼働グラフや、データが監視可能で、集計もスムースに行えるようになった。

このように、スモールスタートが実現しやすいシステムによって、短期間で試験導入が可能となり、一定のデータを観測することができるため、その後の本格的導入の際にエビデンスとして活用しやすくなったといえる。

(3)システムの検証と今後の課題
IoT導入によって、個々の機械の稼働率や故障復旧時間などが「見える化」され、問題点が浮き彫りになると、そこから改善のニーズが生まれてくると考えられます。

しかし、IoT化した機器設備を操作したり、収集したデータを分析し有効活用できる人材の確保が必要になってきます。企業での人材確保が困難な場合は、アウトソーシングを活用するのもひとつの方法と考えられますが、コストメリットが出せるかどうかの検討が必要になります。

今回は、ほぼ自動で加工するプレス機械の稼働データを取得する取り組み事例ですが、作業者が主体となって行う機械加工や組み立て作業の実績データを取得するには何らかの工夫が必要です。

現状は、作業開始、終了、加工数量などの作業日報を人の手で入力する方法がとられており、入力忘れ、入力ミスが発生する、またデータを集めて集計する作業が生じるため、IoT化においては、バーコードリーダーやハンディーターミナルによる入力方法が取られていますが、それでも現場作業者の負担となることも事実であり、したがってその必要性を作業者に理解してもらうなど、現場との協力体制が欠かせません。

IoTの活用を検討する場合、最終的に企業の経営層判断が鍵を握ると考えられ、IoTの可能性を経営層が理解しない限り、中小製造業のIoT導入は遠い道のりといえます。

「スマートファクトリーへのロードマップ」で述べているように、スマート化を進めるにあたっては、小規模な取り組みからスタートし、導入効果をモニタリングして、小さな手応えを得ること、さらにPDCAを短いサイクルで繰り返し、システム化・運用の見直し・改善を図ることが重要であると考えます。

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