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協働ロボット導入による生産性向上(中小企業のスマートファクトリー化 3)

2020.06.18

ロボット

こんにちは。
高崎ものづくり技術研究所の濱田です。
当研究所は、中小製造業の現場ですぐ使える品質管理、生産管理、組織・人材管理ツールなどを紹介しています。
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以下はある部品受注生産工場で実際にロボット導入を検討した経緯を示したものです。
プラスチック生産ラインへロボットを導入する
(1)本取り組みの背景・目的
当社は1980年にプラスチック製品の製造を開始した。現在では主に電子機器用部品や医療機器用部品、自動車用部品等の製造を行っている。当社では金型設計・製造、射出成形や組立までの生産工程を構築している。今までに幅広い分野の顧客を開拓し、差別化を図ってきた。

(2)自動車用部品の取り組み内容
自動車用部品について当社は、大手向けの部品を製造しており、地元に本社のあるT社のTier 1(完成車メーカーの一次請負業者)として採用されており、今後はプラスチック部品製造の重要パートナーの地位を築いていく。現在、当社全体における自動車関連事業の売上高の割合は低く、今後3年後には現状の2倍まで向上させる計画である。そのため、電気自動車やハイブリッド車用部品の量産技術開発の取り組み等を行っていくことで、当社の主力事業として位置づけ、積極的な事業拡大を図っていく。

1)現状の問題点・課題
当社では主な取引先企業が50社以上存在し、多品種の部品を製造している。しかし、金型交換などの段取り替え作業、さらに、各生産ラインでの部品の検査や箱詰め、運搬などの作業に人手がかかり、海外からの研修生を採用し生産を行っているが、多工程持ち作業が困難であり、生産性が上がらないという問題がある。
今後は、人手不足による採用難、働き方改革による残業規制等により、自動車部品等の増産への対応が益々困難となることが予想される。さらに品質に関しては、自動車部品の納入先からの厳しい要求に応えるため、全数外観検査の実施が必須となっている。

そこで、24時間連続生産が可能でロット当たりの数量が多い自動車用部品の製造を拡大するにあたって、現在は人手により行っている射出成形後の検査及び、通い箱詰め、運搬作業等を自動化し、生産性の向上を図ることが課題となっている。

2)本取組みの概要
本取り組みでは、自動車部品のモデルラインを設定し、協働ロボット及び画像センサーを導入し、射出成形した後、検査及び通い箱への収納作業の自動化による省人化に取組む。
なお、最終的にはすべての自動車部品等の連続生産の射出成形部品に適用可能なシステム構築を考えているが、本事業では最初にモデルラインを設定し、ロボットシステムを導入することとし、モデルラインでのノウハウを蓄積後、他のラインへ順次展開することとする。

3)具体的成果目標
1)協働ロボットシステムの導入により省人化を図り、付加価値生産性を増加させる。
①現状(1ライン当たり)
  作業者:2名(2交代:22時間稼働)、運搬:0.5名、段取り:0.5名 合計:3名/ライン
②改善後
  作業者:0名(無人)、運搬0.5名、段取り0.5名 合計;1.0名/ライン
③効果
 3-1=2 1ライン当たり2人の省人化達成
 ロボットの処理能力の向上による生産数量の10%増加を見込む。
 またシステムの導入費用は約2000万円/1ライン当たり
 生産対象の製品のキャッシュフロー増加分は投資回収期間3年間で3500万円(+1500万円)

2)画像検査機導入による不良流出防止
 過去実績:2019年度、自動車部品の客先流出クレーム件数 3件 
 予想効果:過去流出不良検出を主体とする画像検査を実施することで、流出ゼロ件達成

4)自動検査、箱詰めシステムの構成
本取り組みにて構築する自動検査箱詰めシステムのイメージは以下のとおりである。



一般的な産業用ロボットは、事故を防ぐための安全柵の設置が必要なこと、またロボットが動作するための専用生産ラインを構築する必要があるなど、中小製造業が手軽に取りいれるのは困難であった。こうした産業用ロボットの課題を解決するために、法律の規制緩和が行われ、消費電力を抑え、動作速度を下げるなど、一定の条件を満たしたロボットであれば、安全柵を設置しなくても導入可能となった。このようなロボットが「協働ロボット」であり、人に代わって、または人と共存して作業することが可能となった。この規制緩和により、価格のハードルが下がり中小製造業においても導入することが容易となった。

今後働き方改革により人の労働時間規制が厳しくなることから、協働ロボットによる24時間稼働を実現し、人件費を抑えつつ高い生産性を確保可能となり、長期的には導入コストを上回る効果を発揮できる。

協働ロボットは、ハンドリング、移動、物体認識などのロボットの基本動作を、簡単な操作でティーチングが可能であり、また小型軽量であることから、多品種少量生産に適応可能であり、必要な工程にピンポイントで導入できるため受注型中小製造業にとって大きな導入メリットが期待できる。

自動検査箱詰めシステムを構築するためには、検査用カメラにOK/NGを判定させる必要があるため、バリ、白化、ショートや焼け、ひけ、ウェルドといった成形不良が発生しているサンプルを準備し、画像センサーで検出・判定できるように事前にチューニングを行う。また、射出成形機付近には取出し機等の周辺機器が多く存在しているため、それらとの干渉も考慮した設計を行う。

更に、製品を収納する際の製品姿勢や、製品でいっぱいになった梱包箱の交換方法等についても、ロボットの作業効率や正確性を検証しながら継続して検討し、更なる省人化を検討していく。

(3)システムの検証と今後の課題
1)検証方法と内容
自動検査収納システムの導入後、3か月間は試験的に稼働し、問題点を洗い出し、課題抽出し対策を講じていく。その後、本格運用し、システムの動作不具合、停止の有無やOK/NG誤判定の有無などのデータを取得し、検証を行う。不良品のOK判定や、良品のNG判定等、誤判定があれば、判定基準の見直しを適宜行い、判定精度の向上を図る。

2)今後の課題
現状、本取り組みは計画段階であり、以下の課題を克服すべく継続して検討を行っている段階であり、実現には至っていません。

①ロボットは新入社員より仕事ができない
ロボットのイメージとして、無人の自動車生産ラインで忙しく稼働しているたくさんの溶接ロボットをイメージすると思いますが、多品種少量生産工場においては、人が主体の作業となっています。

この場合は、人が行っている作業をすべてロボット化しないと無人化はできません。しかし、人の作業は様々あり、それらをすべてロボット化するには相当の努力が必要であることがわかります。

例えば、コンベア上にランダムに流れてくる部品を手に取って、裏面、表面、側面の外観検査を行い、箱に一つ一つ並べて積み重ねます。不良品と判定した場合は不良専用箱に入れます。
箱がいっぱいになると、運搬待ちエリアに積み重ねて置きます。そして新しい空箱を手元において作業を継続します。

この作業をすべてロボットに行わせようとすると、相当の能力を持ったロボットが必要になり、また生産ラインを切り替え、異なった種類の部品生産を開始する前のセッティング、調整が必要になってきます。ですが、今のところこのような仕事をこなしてくれるロボットは世の中にありません。人間であれば、新入社員を少し教育すればすぐにできる作業でもロボットでは難しいのです。

また協働ロボットは、安全性を考慮し、動作スピードに制限があります。ロボットメーカーによる模擬テストの結果では、当初見込んだ10%の生産量の増加は達成できず、また外観検査における見逃し対策も含めると、生産量は、ほぼ人の作業と変わらないか、場合によってそれ以下の生産量となっています。

②多品種少量生産工程に柔軟に対応できない
ロボットは、同じ動作を何時間でも繰り返すことは得意です。しかし、上記の人の作業のように、多くのパターンの作業をさせるのには向いていません。
多品種少量生産工場では、何日間も連続して同じ製品を作り続ける製造ラインは存在しないため、品種が変わるごとにロボットに作業を覚え込ませ、支障なく作業できるまでの手間が膨大となってしまい、実用的ではありません。

③ロボットに合わせたものづくりのしくみとは
そもそも、今までは人の作業を前提としたものづくりの考え方、しくみ、設備などの中で、そこに、いきなりロボットを導入しようとしても無理が生じてきます。協働ロボットは、人との共存、協働が可能になるというコンセプトで開発されたものですが、人の作業のごく一部しかその役割を果たしてもらえないのです。

したがって、ロボットの特徴、メリットを生かすことを前提とし、ロボットが主体となって作業を行い、人はその補助を行うだけの生産ラインを新たに構築していかなければスマートファクトリー化は困難であると言えます。

2.IoTシステム導入による設備の稼働率向上
IoTを支える構成要素は、大きく「IoTデバイス」「ネットワーク」「クラウド」の3つです。IoTのしくみは、センサーなどIoTデバイスが現場の機械の稼働状況データを収集し、ネットワークを通じてクラウド上でデータを蓄積・解析、ディスプレイ表示することで、稼働状況がリアルタイムで監視可能となります。

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